熱めの湯船につかりながら、あたしは高科のことを考えた。
別に気になってるというわけではなかった。いや、違う意味では気になっていたのかもしれないけれど。
高科って…
「どんな顔してるんだろ?」
「は?誰が?」
「いや、だからさ。高科」
「あぁ…クウはねぇ…。んー…カッコいい」
「そっかぁ」
あたしの勘はまだまだ鈍っていなかったんだ。
といっても、アイツのオーラがすごかったからかもしれないけどさ。
「やっぱモテるの?」
「多分、学年で一番ね」
「えぇ~!?ハルよりもぉ!?」
「みひろの幼馴染自慢はいいから。いや、彼氏か?」
「付き合ってはいないもん」
「へぇへぇ、さよーでございますか」
「うん。…で、さ。乃愛も高科のこと好きなの?」
「ぜーんぜん。乃愛は男子よりも、みひろの方がいい」
「あははっ!そっかそっか!乃愛は可愛いなぁ~!」
2人で湯船の中でバシャバシャ音を立てながら抱きあったりしてじゃれあう。
普通、健康な女子がこんなことしてたら周りはほとんどパニックになるだろう。
だけど、あたしたちは学年公認のカップル(?)なので、クラスメイトたちは、
「みひろと乃愛がまた百合ってるよ」
「仲いいねぇ」
「倦怠期知らずだなぁ~。キャハハ!」
などと手慣れたもの。

ちょっとのぼせた。
さすがに長く入りすぎたかもしれない。
濡れた腰まで届く髪をバスタオルでふきながら、廊下を歩く。
乃愛は食事係だから今は食堂にいる。つまり今私は一人。
「…あっ」
「…おぅ」
会ってしまった。
ポケットの中の手をぎゅっと握る。
その中には、ガラスのアヒルがある。
「神崎さん、こんばんは」
ニコッと微笑む男の子…いや、高科曽良。
「半日ぶりだね」
「あ…うん。アイス、ありがとね。美味しかったよ」
なんか…苦手だ。心臓がドキドキして、うまくしゃべれない。
言いたいことが言えない。
あまり喋りすぎると、思ってもいないことを言っちゃいそう。
そうだ。考えてみれば、小さい頃からそうだった。
男の子と喋るときはいつもそう。
うまくしゃべれない。
何か変なことを言うと、叩かれるんじゃないかって思ってしまう。多分、お父様の影響だろう。