「それって絶対、クウだよ!」
1日目の夜、つまりは、アイスを食べた日の夜。
宿の女湯で、あたしの親友こと超絶美少女の桐島乃愛が、長いフワフワの髪を揺らしながら勢いよくあたしに告げた。
「?…クウ?誰?それ」
「高科曽良っていってね、まさにアイドルって感じの男の子」
「ふぅん…タカシナソラ…ねぇ。あれ?でもなんでクウなの?」
「ソラを漢字の空にするの。空って、クウとも読めるでしょ?」
「あ、そっか」
頭に浮かんでいた疑問の1つが無くなった。
それは、あの男の子の名前。
でも…
「どうしてそのアイドルが、この一般人で通行人D、E辺りのこのあたしを知ってたわけ?あたしは知らなかったのに…」
そう。一番の疑問はこれ。
平平凡凡、なんて言葉が一番似合うこのあたしをどうしてアイドルが知っていたのか…それがよく分からない。
「なーに言ってんの!みひろは色が白くて目が大きくて。笑顔が可愛くて、なんだってできる!まさに秀才美少女じゃない!日ごろは乃愛のことばっかり可愛い可愛い言ってるけど、みひろだって可愛いんだよ!?」
乃愛が半ばキレ気味で意味のわからないことを言ってくる。
そりゃあ、ルックスだって、最低とは言わないし、そこそこだって思ってる。
けど…
「なによりあたし、地味じゃん」
「…………はぁ~…」
盛大にため息を吐かれちゃいました。

「まぁ、明日ちゃんと渡すことだね、そのマスコット」
「うん、そだね」
実は別れ際高科に声をかけたのは、疑問があったからだけではなかった。
彼の上着のポケットから小さなマスコットが落ちたのが見えたのだ。
つるつるとした滑らかな質感。多分ガラス製。
白色と水色と青色でできたアヒル。
正直言って、すごく好みだった。
このまま黙って盗んでやろうかと考えてしまうくらいには、魅力的だった。