――――それでも。
師からの任は、絶対。
だから、答えは一つだけ。
「はい、師匠」
「…………クレナ、正しかったか?俺と来た道は」
――――不意に、男は紅雫にそう問うた。
紅雫はす、と目線をベッドの向こうの窓に移し、目を細めた。
―――――この四年間、様々なことを教わった。
この国―――アシュナ国の言語から、他の主要言語、剣の扱いから人の命を左右する方法まで。
暗殺に関するすべてを、教わった。
この四年間は、決して甘いものでは無かった。
………正直、何度死ぬと思ったか判らないけれど。
紅雫は淡く微笑って、小さく呟いた。
「判りません」
その声に、男は小さく首を動かし、紅雫を見つめた。
「私が選んだこの道が、正しかったのかどうかは判りません。………ですが、後悔はしていませんよ」
―――自分で選んだ道だから。
例えこの先、どれだけこの手を汚そうとも―――……。
決して後悔だけはしない。
「そうか――……」
吐息の様な声で、男はそういうと。
ゆっくりと、瞳を閉じた。
――――月が。
闇に浮かんでいた月の様に輝く銀色の瞳が、閉ざされた。
「………師匠?」
闇の中に、少女特有の声が落ちる。
しかし、返事は帰って来ない。
眠ったのだろうか――……。
そう思い、掛布から出た手を中にしまおうと触れ―――その冷たさに、動きを止めた。
「し……しょう?」
呼んでも、当然返事はない。
「………お休みなさい、師匠」
――――瞠目して。
紅雫は静かに、師の死を受けとめた。
―――― 一滴の透明な雫が、
掛布に、小さな染みを作った。

