―――――深遠の闇の中。

 そこに、蠢く影が二つ。

「…………師匠」
「…………クレナか」

 床に臥した男は、けだる気に身体を起こすと深々とため息を吐いた。

「まさかこの俺が、こんなに早く死ぬことになるとはなぁ」
「………師匠」
「まだお前には山程教えることがあるというのにな」
「…………」
「ま、大丈夫だろう」
「師匠……!」

 あっさりと死、と口にする師を、悲鳴に似た声で咎めた。

「………ばかなこと、言わないで下さい」
「………悪かった。だが、お前もわかってるだろ?」

 ―――――師がもう、助からないであろうこと。

「でも、」
「でもも何もない。人間いつか死ぬんだ。遅かれ早かれ、な」
「………っ」
「…………なぁ、クレナ」


 男は横になると、どこか遠い目をして少女―――……紅雫の名を呼んだ。

 紅雫が瞳を向けると、男はゆっくりと口を開き、命じた。

「お前に、最後の任を言い渡す。―――この国の王を殺せ」
「師匠……っ!?」
「昨日来た依頼だ。罠かもしれん、気を付けろ。この任が成功したら、お前は一人前だ」

 ――――紅雫はまだ、手を汚したことはなかった。

 だから、最初であり――最後の任。

「………判りました」

 成功すれば、暗殺者として暮らしていく。

 失敗すれば――……。

 命を落とすだけ。