男の言葉に、驚いた少女は小さく声を上げる。

「あんたを拾ってやるよ」

 ニヤリ、と笑った男は、少女に手を差し伸べ―――問うた。

「俺に拾われるか、野垂れ死ぬか。二つに一つだ――……選べ」
「……………」

 ――――他にも、選択肢はあったはずだ。

 が、少女には本当に、その二つしか道はないように思えた。

 人買いの男二人から、逃げて来たのだ。

 朝になったら、血眼になって捜されるかもしれない。

 売られたのは理解した。

 けれど、その先を想像出来なかった。

 ―――否、したくなかった、と言った方が正しい。

 なぜって、考えなくても判るから。

 だったら――……。

「………いいのか?暗殺者として育てるぞ、俺は」
「構わない。どうせ売られたんだから、末路は同じ。そうでしょ?」
「………そうだな」

 ――――例え、この先の道が闇に塗れたものだとしても。

 それでも、色街で生きていくよりも良いと思えた。

 ――――自分の選んだ道が、

 正しいとは思えないけれど。



「なぁ、あんた名前は?」
「…………紅雫【クレナ】」


 ――――男がなぜ、霖国の言葉が遣えたのか。

 それを知るのは、もう少し先の話。