仮面舞踏会【短編二編】

『待ち合わせですけれど、市ノ瀬さんは来ているかしら?』

『はい。確かに市ノ瀬さまから承っておりますが、

あいにく渋滞の為、少々遅れていらっしゃるようです』

受付の年配の男性店員は そう言うと、テーブルへ案内してくれた。

ゆったりとした空間だ。

しかし落ち着かない真奈美は、再び立ち上がって化粧室へ向かった。

鏡に映る自分を見て 少し罪悪感を感じた。(里緒の忠告を守って薬を飲まなければよかった)

今なら会わないで帰ることができる。

もし彼が来ていなかったら帰ろうと思いながらテーブルに向かう。

まだ来ていないようだった。

真奈美が急いで立ち去ろうとすると、

さっきの年配の店員がこちらへゆっくりと歩いてくる。

その背後には一人の男性の姿があった。真奈美は慌ててテーブルへ戻った。

『市ノ瀬さまが いらっしゃいました』

店員の後ろから現れた男性は、

『遅れて申し訳ありませんでした』

深々と頭を下げた。

『いいえ 私も今来たばかりですから』

店員は、その成り行きを見守ると、メニューをそれぞれに渡し、

一礼をして去っていった。

顔を上げた市ノ瀬は、どこにでもいそうなサラリーマンに見えた。

容姿は、これといって特徴もないし、お世辞でも美男とは言えないが、

紳士的で動作が美しかった。

ユーモラスもあり、会ったばかりの緊張感はすっかりなくなって

会話に引き込まれていた。

懐かしささえ感じるのは何故だろう?

一時間後には、初対面だと思うことが不思議なほどであった。

市ノ瀬とのメールのやりとりの胸の高まりと同じ感覚。

本人に間違いないと思った。