仮面舞踏会【短編二編】

京香は頷きながら

『身分不相応だって諦めているけれど・・・・

でもね、彼は何の苦労もしないで育った人とは思えないほど人間味があるのよ』

『そんなふうには見えなかったけれど・・・』

『会社の近くにFUNていうスポーツセンターがあるの。

彼はそこの会員でね、男性会員がインストラクターに怒鳴っていたの。

すご~く怖かったのよ。

その時 彼は毅然とした態度で その会員の手を掴んで止めたの!

それだけじゃないわ!

会社でも上司のセクハラやパワハラは絶対に許さない正義感があって、

社員を上から見下ろすようなことはしないんだから。

同じ目線で社員を見てくれるの。

もし社長の息子さんじゃなかったら諦めないでアプローチするのに』

『あら!それじゃあ意味ないでしょ!

社長の息子だからこそアプローチする価値があるのよ!

京香は考え方を改めるべきね!

諦めないで頑張れば好きになってもらえるかもよ』

『無理無理・・・・夢のまた夢』

『もったいないわね・・・・

うまく結婚なんてことになったら、セレブの仲間入りなのに』

『何言ってるのよ!私はそんなこと考えてもいない・・・・

あの人自身が好きなの』

『そんなこと言っていたら損するわよ』

絵梨香は甲板へ出ると満月を見上げながら微笑んだ。




それから1週間ほど経った夕方、駿はFUNスポーツセンターにいた。

ふと見覚えのある女性に気付き、声をかけた。

『こんばんは!たしか黒木京香さんのお友達の片倉・・・・』

『絵梨香です』

少し首を傾け、彼女が一番可愛く見える最高の笑みで挨拶をした。

『ここの会員ですか?』

『ええ・・・・京香さんに勧められて入会したんです』

『そうですか。今日は京香さんと一緒ではないのですか?』

『はい・・・』

しばらく沈黙が続いたが、絵梨香は 駿の何か言いたげな仕草を見逃さなかった。

『片倉さん・・・・この後、お時間ありますか?』

期待どおりの言葉だったが、少し困ったような顔をして

『はい・・・少しなら』

『では・・・あとで会いましょう』