仮面舞踏会【短編二編】

『それは、たった一度だけ 自分の望む近い過去へ戻ることが出来るのです。

ただし このカレンダーに書いてある日付のみですが。

これは時間の巻き戻しのようなもの。

瞬間で現在時刻に戻ってくることは出来ません。

どうですか?彼の心を取り戻しに過去へ行きますか?』

『もちろん!行きます』

絵梨香は夢のような話に有頂天になった。

『ただし あなたの目的意外に過去を変えようとしないこと。

そして、このカレンダーのことや

過去へ戻ったという事を他人に話してはいけません。

絶対に秘密は守ること。いいですか?

もし誰かに口外すればあなた自身が消滅します』

『わかりました・・・・・あの・・・おいくらなんでしょうか?』

『1000円いただきます』

絵梨香は あまりの安さに驚いたが、1000円札を老婆に渡して

カレンダーを大切に抱えて碧の館を後にした。





港町にある白い洋館の6室しかないこじんまりしたアパートは、

もともと外国人向けだったが現在は女性専用である。

その一室に、絵梨香の住まいはあった。

さっそくカレンダーを取り出してテーブルに広げてみた。

本当に過去に行けるのなら、どの日付に戻ろうか。

( 駿は、いったい私のどこが気に入らなかったのだろう?)

突然、携帯電話の呼び出し音が鳴った。

友達の由佳だ。

『はい もしもし?』

『絵梨香?あなた結城さんと どうなってるの?』

『どうしてかしら?』

『さっき見ちゃったんだけれど、京香と食事してたわよ・・・・

しかも素敵なレストランで』

『さぁ・・・・何か仕事の話でもあったんじゃない? 

私たち、とてもうまくいってるわよ』

『ならいいけれど・・・・心配しちゃったわ』

( 何が心配しちゃったよ!本当は喜んでいるくせに )

絵梨香は平静を装っていたが、心の中は混乱していた。

高野由佳と黒木京香は大学の頃からの友達で

二人ともユウキベンチャーキャピタルの社員だ。

電話を切ると、駿と出合った頃を思い出してみた。