アルコールと彼の指輪

 お酒を飲んだ次の日と言ったら二日酔いになって、それでも重い身体に鞭打って無理やりベッドから起きるものなんじゃないのだろうか。
 ああ、昨日は飲み過ぎた、と。そうやって少し反省しつつ、昨夜の楽しい出来事、何でも良いけど例えば飲み会で集まったみんなのことを思い出して、つい口元を緩ませたりするものなんじゃないのだろうか。

 それなのに何だ、今のあたし。全然頭痛なんてしないし、寧ろスッキリと冴えている。昨日――正確には今日だけど――のことを思い出しても、大して楽しいことも無い。隣に住むおじさんと話した内容だって、どうでも良すぎて覚えてないし。

「あ……起きたんだ」

「ねぇ、あたし他の部屋で寝た気がするんだけど」

 眠たげに目を擦る彼に目を向ける。彼は昨日一緒にお酒を飲んだおじさんで、あたしの部屋の隣に住むおじさんで、本名は確か……おじさんでいいや。
 とにかくあたしは、そんなおじさんの部屋のリビングの方で眠りについた筈だった。

「うん、ごめんね。くまちゃんは女の子だし、ソファよりベッドで寝た方が良いと思ったんだ」

 そう、ここはベッドの上だ。多分おじさんの、ね。

「それなら普通、おじさんはソファで寝るものじゃない?」

「うん。だけどね、俺もベッドで寝たかったんだ。ソファで寝ると身体中が痛くなる」

 そしておじさんとあたしは仲良く同じベッドで寝ていたのだ。
 おじさんはベッドから起き上がり寝癖のついた栗色の髪をわしわしと掻くと、一つ欠伸をする。目尻をうっすらと涙で濡らし、うんと大きく伸びをした。