アルコールと彼の指輪

 そうか、やっぱり彼でなければそういうことになっていたのか。

「……隣に住んでたのがおじさんで良かったー。あ、でも別にヤられても良かったかも」

「は?」

「あたし、せっかく東京まで出て来たのに毎日つまんなくてさ。刺激が欲しいっていうか、何ならおじさんとしても良いよ。おじさんが嫌じゃなければだけど」

「嫌だよ」

 彼はにこやかに女の誘いを断った。だからこそ、だ。初めからそんな気がしていた。彼はそんなことはしないと、あたしの勘は全く当てにならないけど、今回ばかりはそんな当てずっぽうな思い付きも奇跡的に役立ったのだ。

 彼はそっとあたしの手を離して、ようやく缶酎ハイを開けた。
 汗を掻いた二つの缶は、テーブルに填められたガラスに拳程の円の形をした水溜まりを作っていた。

「くまちゃんは変な子だね。普通、少しは動揺するものじゃない?」

 ゴク、彼の喉仏が大きく上下する。やたらセクシーだな。一人で照れたあたしはそれとなく彼の首筋から視線を逸らした。

「はぁ、動揺するのが普通なんだ。……知らなかった」

 けれど彼も大概変な人だ。重くなる瞼を閉じながら、そう思った。



 ――そんな、二十歳を迎えた夜。隣には彼氏でも何でもない、変なおじさんが、いた。