アルコールと彼の指輪

 出会って二日。
 ただの隣人でしかない男相手に、あたしは何をこんなに動揺することがあるのだろうか。
 カレーの話に気を取られ過ぎて、肝心の目的であるカツカレーを殆ど味わえていない気がする。
 とか思いつつも、あたしの興味は更に別の方向へ向いてしまう。

「おじさんって彼女いないの?」

「ふふ、いきなりだね。さっきまでカレーの話だったのに」

 おじさんはもう少しで食べ終えてしまいそうだ。意外に良い食べっぷりだと思う。

「だって、カレーなんて彼女に作って貰えば良いことじゃない?」

「あー、うん、きっと作れないと思う。あの子料理苦手だし」

 当たり前のように返された言葉に、息が詰まる。

「な、何だ……やっぱり彼女いるんじゃん」

「うん? いるよ」

 おじさんは浅く笑った。
 とても幸せそうな微笑みに見えた。
 ムカつくとさえ思った。

「なら不味いんじゃないの? 彼女がいるのに、あたしと一緒なんて」

「え? だって俺はくまちゃんとカレーを食べに来ただけだよ? 別にやましいことは何も無い」

 男って何て仕様の無い生き物なのだろうか。女はいつだって不安を抱えているというのに。
 少なくともあたしはそうだった。
 会えない時、連絡が取れない時。不安に押し潰されそうになる時間を、ひたすらに過ごした。

「男って何でこうなの」