アルコールと彼の指輪

 大学で過ごす時間に、何の魅力も無かった。目的を見失ってしまったのだ。
 本当にこの大学で良かったのかと、二年目に入った今になってそんな疑問を持ち始めていた。
 まだ若いからいくらでもやり直しはきく。
 世間はそう言うかもしれないけど、あたしにやり直す余裕なんか無いのだ。この大学に入れたのは、親の助けがあったから。それを無駄には出来ない。だから頑張らないといけない。
 つまらない講義も、ちゃんと聞かなくちゃって。そう思えば思う程、ひどく面倒なことに感じた。

     *

 おじさんが車を停めたのは、あたし達が住むマンションの更に向こう側の、大通りの傍の駐車場だった。ずっと景色を眺めていたけど、来たことの無い場所だ。無理も無い。家から大学までが、あたしの行動範囲なのだから。

 車を降り、少し混んだ大通りを五分程歩くと、建物の隙間に挟まるようにしてその店はあった。薄汚れた暖簾と、磨り硝子の引き戸がなかなか入り憎い空気を出している。

「懐かしいな、高校以来かな」

 おじさんはそう言いながら引き戸を開けた。後に続けば、いらっしゃいとやる気の無い声を掛けられた。店内は狭く、ギトギトした油のような臭いが充満していた。カウンターにはぽつぽつと人が座っていて、あたし達は座敷を選んだ。

「変な店だよね、此処。カレーの他にラーメンとかもやってるんだよ」

「高校の時、よく来てたの?」

「うん。部活の後に、部員達とね」

「家ではご飯食べないの?」

「食べるよ。ラーメン一杯じゃ、足りないでしょ」

 全然足りるよ。あたしがそう言うと、彼は低いテーブルの木目に視線を落として笑った。

「当たり前だけど、夏が一番ハードでさ、みんな家に帰るまで待てなかったんだ。一年は練習がきつ過ぎて食欲が無い奴もいたけど、二、三年で部活に慣れてくると、食べずにはいられなかった。次の日も朝練から始まるからね」