助手席のシートには、煙草の匂いが染み付いていた。彼が働いている美容室のオーナーに借りた車だと、彼は言う。安月給だから、自分はまだ車なんて持てないとも。
少し乙女趣味らしいオーナーの車は小さく、ボンネットが丸みを帯びて、全体のラインが滑らかなことが特徴的だった。
ミルクのような薄い黄色がカスタードクリームのようで、美味しそうな車だと言ったら、「くまちゃんは食いしん坊だね」と彼は笑った。嫌味など含まない彼の物言いが、くすぐったかった。
ハンドルを握る彼の横顔を盗み見た。何だか背の高い彼にこの車は小さくて、座席の奥まで座っても、足は窮屈そうにアクセルを踏む。オーナーは乙女趣味だと言っていたけど、本当にこの小さくて可愛い車が似合うような乙女なのではないのだろうか。
あたしの視線に気付いた彼が、ちらりと横目にあたしを見ると、薄く笑った。
「見過ぎ。俺の顔に何か付いてる?」
「……別に」
あたしは逃げるように彼と反対側の景色へと瞳を走らせた。そんなあたしに、彼がまた笑う気配がする。
窓越しのバックミラーに映る自分の顔を睨み付ける。――ブス。
心の中でそう吐き捨てて、ああ釣り合わない、そう思った。
「何処の美容室で働いてるの?」
「街から少し外れた所。小さい店だよ」
「お店の名前は?」
「あ、次は右だよね?」
交差点に来た所で彼は話の腰を折り、あたしが相槌を打つと右へハンドルを切った。そしてまた彼は続ける。
「あ、お昼も迎えに来るから。一緒にカツカレー食べに行こうね」
店名を聞いたのに、話を逸らされた? いや違う。きっと、たまたまだ。
そう思いながら、彼の言葉に頷いた。だけどその後にまた店名の話題を振るのは何となく憚れて、今は諦めてまた今度聞くことにした。
少し乙女趣味らしいオーナーの車は小さく、ボンネットが丸みを帯びて、全体のラインが滑らかなことが特徴的だった。
ミルクのような薄い黄色がカスタードクリームのようで、美味しそうな車だと言ったら、「くまちゃんは食いしん坊だね」と彼は笑った。嫌味など含まない彼の物言いが、くすぐったかった。
ハンドルを握る彼の横顔を盗み見た。何だか背の高い彼にこの車は小さくて、座席の奥まで座っても、足は窮屈そうにアクセルを踏む。オーナーは乙女趣味だと言っていたけど、本当にこの小さくて可愛い車が似合うような乙女なのではないのだろうか。
あたしの視線に気付いた彼が、ちらりと横目にあたしを見ると、薄く笑った。
「見過ぎ。俺の顔に何か付いてる?」
「……別に」
あたしは逃げるように彼と反対側の景色へと瞳を走らせた。そんなあたしに、彼がまた笑う気配がする。
窓越しのバックミラーに映る自分の顔を睨み付ける。――ブス。
心の中でそう吐き捨てて、ああ釣り合わない、そう思った。
「何処の美容室で働いてるの?」
「街から少し外れた所。小さい店だよ」
「お店の名前は?」
「あ、次は右だよね?」
交差点に来た所で彼は話の腰を折り、あたしが相槌を打つと右へハンドルを切った。そしてまた彼は続ける。
「あ、お昼も迎えに来るから。一緒にカツカレー食べに行こうね」
店名を聞いたのに、話を逸らされた? いや違う。きっと、たまたまだ。
そう思いながら、彼の言葉に頷いた。だけどその後にまた店名の話題を振るのは何となく憚れて、今は諦めてまた今度聞くことにした。

