「ああ、そうだ。はいこれ」
そう言って手渡されたのは、あたしの携帯電話だった。白の、スライド式の。
「部屋に忘れて行ってたよ。強烈なアラームにびっくりして飛び起きちゃった。俺の耳元に置きっ放しだったのは、もしかしてわざと?」
そういえば。
アラームが鳴る前に部屋を出たのだと、今になって気付いた。そして、起きた時には手元にあった携帯のその後の行方のことが、すっかりと頭の隅に追いやられていたことも。
あたしは携帯を受け取りながら、「わざと」と答えた。彼は小さく笑った。
「返しに行こうと思って部屋を出たらさ、くまちゃんが知らない男にエレベーターに押し込まれているのを見てね。もう一つは故障してて使えないから、焦ったよ」
「じゃあ、階段で?」
「うん、まぁ。あんなに走ったのは久し振りだよ。やっぱり年は取りたくないね」
そう言って白い歯を見せて爽やかに笑う彼に、年は感じられなかった。彼に抱きついた時だって、特に息を切らしていた訳でもない。あたしが自分のことで精一杯だったから、気付かなかっただけかもしれないけれど。
部屋が四階で良かった。
彼はそう言ったけど、何が良かったのだろうか。エレベーターは真っ直ぐ下りてくるけど、階段はジグザグだ。それなのにエレベーターよりも早く階段を下りるだなんて、有り得ないと思った。
信じられないながらも感心していた時に、彼は思い出したように口を開いた。
「くまちゃん、学校に行かなくていいの?」
彼の言葉に、あたしは慌てて携帯を開いた。乗る筈の電車は五分前に既に発ってしまっている。大学は二駅先で近いからと油断して、五分前の電車に乗ればギリギリで講義に間に合う予定だった。今からじゃ間に合わない。そう思うと、急に行く気が失せてしまった。
「よし、車で送ってあげるよ」
「え、いいの?」
「うん。携帯のついでだからね」
車で行っても間に合わない時間だ。控えめに言っても、講義に遅れて行くのは少し憂鬱に思う。だけど、それよりも彼の運転する車に乗ってみたい気持ちを優先した。好奇心。それだけだと思った。
そう言って手渡されたのは、あたしの携帯電話だった。白の、スライド式の。
「部屋に忘れて行ってたよ。強烈なアラームにびっくりして飛び起きちゃった。俺の耳元に置きっ放しだったのは、もしかしてわざと?」
そういえば。
アラームが鳴る前に部屋を出たのだと、今になって気付いた。そして、起きた時には手元にあった携帯のその後の行方のことが、すっかりと頭の隅に追いやられていたことも。
あたしは携帯を受け取りながら、「わざと」と答えた。彼は小さく笑った。
「返しに行こうと思って部屋を出たらさ、くまちゃんが知らない男にエレベーターに押し込まれているのを見てね。もう一つは故障してて使えないから、焦ったよ」
「じゃあ、階段で?」
「うん、まぁ。あんなに走ったのは久し振りだよ。やっぱり年は取りたくないね」
そう言って白い歯を見せて爽やかに笑う彼に、年は感じられなかった。彼に抱きついた時だって、特に息を切らしていた訳でもない。あたしが自分のことで精一杯だったから、気付かなかっただけかもしれないけれど。
部屋が四階で良かった。
彼はそう言ったけど、何が良かったのだろうか。エレベーターは真っ直ぐ下りてくるけど、階段はジグザグだ。それなのにエレベーターよりも早く階段を下りるだなんて、有り得ないと思った。
信じられないながらも感心していた時に、彼は思い出したように口を開いた。
「くまちゃん、学校に行かなくていいの?」
彼の言葉に、あたしは慌てて携帯を開いた。乗る筈の電車は五分前に既に発ってしまっている。大学は二駅先で近いからと油断して、五分前の電車に乗ればギリギリで講義に間に合う予定だった。今からじゃ間に合わない。そう思うと、急に行く気が失せてしまった。
「よし、車で送ってあげるよ」
「え、いいの?」
「うん。携帯のついでだからね」
車で行っても間に合わない時間だ。控えめに言っても、講義に遅れて行くのは少し憂鬱に思う。だけど、それよりも彼の運転する車に乗ってみたい気持ちを優先した。好奇心。それだけだと思った。

