アルコールと彼の指輪

 彼は冷蔵庫から持って来た缶酎ハイを二本テーブルに置くと、あたしの斜め右、先程と同じ場所に座った。

「せっかくハタチになったところを邪魔するようで悪いんだけど、聞いても良いかな」

「どうぞ」

「どうして俺のとこに来たの? 今まで一度だってまともに顔を合わせたことも無かったのに」

 缶のプルタブがプシュ、と泡を弾いた。女の子が好きそうな、甘い匂いが鼻腔を擽る。
 何味かな? 一口だけ喉に流し込むと、少し不思議な、爽やかなカシスが広がった。

「……誕生日くらい、話し相手が欲しかったというか」

「そっか。俺はその役目を果たせてる?」

「微妙」

 また一口、カシスを舌の上で転がす。アルコールが少なくてジュース同然だけど、美味しい。

「はは、微妙かぁ。まぁ、俺はあんまり話が上手くないから仕方無いかな」

 けれど口下手という訳じゃない。あたしは心の中で彼の言葉にそう付け加えた。

「ねぇ、隣に住んでいたのが俺で良かったね」

「うん、普通はいきなり来た知らない女を部屋に上げたりしないと思うからね」

「そうだね。それもあるけど――」

 何度目だったか、テーブルの上の酎ハイに伸ばした手を突然大きな手に掴まれて、あたしはその手の主に瞳を走らせた。

 彼は顔に笑みを貼り付けたまま、真っ直ぐにあたしを見ていた。少し意地悪っぽく、口角を吊り上げて。

「俺じゃなかったら、君、とっくにヤられてるよ」