おじさんが大丈夫だと言ったから、きっと大丈夫。
 無条件に彼の腕の中は安心出来た。そして同時に、心臓が煩くなった。
 あたしは少し腕を緩め、彼の顔を見上げる。
 おじさんの部屋を出てから、一度自分の部屋に戻り支度をして出て来たけれど、彼はその間に起きたのだろうか。いや、寝癖が酷い。くりんくりんしていて、そういう髪型だと誤解してしまいそうだけど、明らかに寝起きの頭だ。

「起きたらベッドにいないから驚いたよ」

 まるで恋人のように、愛おしげに親指で涙を拭われて、思わず目を逸らした。彼はくすりと笑む。
 その横から、低い声が分け入ってきた。

「は……新しい男って、そいつかよ。趣味変わったな、渥美」

 しまった。と思った。
 おじさんが新しい男な訳、無いのに。嘘がバレてしまうと思い、フォローの言葉を探した。けれど。

「少し、黙っていてくれないかな」

 おじさんは左を一瞥し、いつもより棘のある声で言った。その指先があたしの顎を掴み、更に顔を上げさせられる。至近距離まで、おじさんの瞳が迫っていた。
 長い睫に縁取られた、透き通るようなブラウン。
 それが薄い瞼に隠れた時、唇に何かが押し付けられた。息を止め、目を強く閉じた。そうしないと、気が可笑しくなりそうだった。
 あたしは彼のシャツの胸元を握り締めた。彼はあたしの腰に回した腕に、やんわりと力を込める。
 そしてすぐに、彼の方から離れていった。あたしはおじさんの胸に顔を埋める。紅く染まった頬を、誰にも見られたくなかった。

「渥美ちゃんの趣味が変わったなら良かった。君と同じにはされたくないからね」

 彼の鼓動は、規則的過ぎた。