またあたしは、ここで目を覚ました。隣には同じ布団を被っているおじさん。
 ねぇ、あたし他の部屋で寝た気がするんだけど。
 うん、ごめんね。くまちゃんは女の子だし、ソファよりベッドで寝た方が良いと思ったんだ。
 それなら普通、おじさんはソファで寝るものじゃない?
 うん。だけどね、俺もベッドで寝たかったんだ。ソファで寝ると身体中が痛くなる。
 彼の寝顔を覗き込みながら、昨日のそんなやり取りを思い出した。女の子はベッドで寝なくちゃいけなくて、彼もベッドで寝たかった。それが今、あたし達が同じベッドにいる理由だった。何か間違いが起きたかなんて、心配する必要は無い。お互いに服を着て、それなりに距離を開けていることが、何の間違いも起こらなかった証拠なのだ。セミダブルのベッドが、とても大きく感じる。

 起こしてくれれば、ちゃんと部屋に帰ったのに。
 彼の傍に寄り添ってみようとして、止めた。あたしはベッドから身を起こし、同時に脳の奥に走ったズキンと重い痛みに、眉を歪めた。これが噂の二日酔いって奴かもしれない。あたしはこの時初めて、二十歳になったのだと意識した。

 リビングのテーブルには、空き缶や空のコンビニ弁当が無造作に積まれていた。缶はいくつか床にも転がっていた。こんなに飲んだのかと息を呑む程だったけど、記憶が無くなるまでではなかった。
 ぼんやりと覚えているのは、恐らく完全に眠るまでのこと。おじさんはあまり酔っていなかったように思う。

 適当にゴミを片付けて、部屋を後にした。

「――渥美」

 腕を掴む手を払いのけた。触らないで。あたしの態度に不機嫌な表情を浮かべた男は、ドアが開くと同時にあたしをエレベーターの中に押し込むと、力任せに肩を抑え付けて来た。あたしは壁に背中を押し付けられ、この場から逃れようともがく。嫌、離してよ。
 男が唇を押し付けてくる。あたしは驚いて呼吸を止めた。エレベーターのドアが閉まる。男の舌があたしの唇をこじ開け、歯列をなぞる。一年前とは違う煙草の味がした。