楽しかったら、あたしはきっと、寂しいだなんて思わない。誕生日を祝ってくれる友達も、少なくともいた筈だった。

「……まぁ、それなりに。でも、課題が多過ぎる気がする。専攻してる科目の先生が厳しいの。怖いし」

 だけどね、とあたしは付け加えた。学食のカツカレーが、凄く美味しいの。今日は何となくうどんにしたんだけど、でも、明日はがっつり系の和食にしようかなって。種類が色々あってね、一番気になってるのは鯖の味噌煮で、でも季節ごとにメニューが変わるから、卒業までには全メニュー制覇したいんだけど、たまに新しいメニューが出来たりするし、その時は決まってみんなが選ぶから、すぐに売り切れちゃってなかなか食べられないの。だから制覇するのは難しいかも。……と、気付けばあたしは学食のことばかりを語って、大学は楽しいかというおじさんの質問の答えを、うやむやにしていた。
 一度言葉を切り、あたしは酎ハイで口の中を濡らす。変なことを喋り過ぎたと思いつつ、もう一度ちゃんとおじさんの質問に答えようとした時。

「メニューの前で険しい顔してるくまちゃんが簡単に想像出来るよ。カツカレーか。いいね、俺も食べたくなって来ちゃった」

 爽やかに笑う彼に、どきっとしなかったと言えば嘘になる。大学のことよりも食い気かよと、鋭い突っ込みを入れられるのを予想していた。彼にとっては、何気無い言葉だったと思う。だけど友達が出来ない以上、楽しみがお昼の学食でしかないあたしにとって、彼の反応はとても嬉しくて、優しかった。じゃあ一緒に食べる? と彼を誘ってしまう程に。

「うん、一緒に食べようか。明日のお昼でいい? 学食より美味しいかは分からないけど、良い店を知ってるよ。あ、でも、明日は和食にするんじゃなかった?」

「ううん、やっぱりあたしもカツカレーが食べたい。和食はまた今度。お昼は暇だし、大丈夫」

 明日も、今日と同じように講義を入れてあるのは午前中だけだ。時間割を組んだ四月の自分を、誉めてあげたくなった。

 五月二十一日の、夕食時のことだった。