アルコールと彼の指輪

「ふーん……その先生、そんなに可愛かったんだ」

 何だかとても面白くなかった。この先生と高校生の頃のおじさんが楽しそうに会話をする姿を想像しながら、あたしはアルバムの頁を捲った。

「ああ、面白くないな」

 おじさんがそう呟いたことに、少し苛ついた。面白くないのはこっちだと、言ってやりたい。でも、どうしてあたしが面白くないと思わなくちゃいけないのかと、その答えには簡単に辿り着けそうな気がしたけど、敢えて自分からそうなることを拒んだ。

「ちょっと、くまちゃんには遠回し過ぎたみたいだね」

「……何が、」

 そこまで口を開いて、あたしは黙り込んだ。この男はまるで、誘うように見つめてくる。それが天然のものなのか、意図的にそうしているのかは分からない。
 彼は静かに、息を吐くように、言った。

「アルバムも見飽きたな。そろそろ飲もうか。夜と同じのしか無かったんだけど、必要ならまた他のを買って来るから」

 彼はあたしの前から移動し、夜の時と同じ、センターテーブルに向かったあたしの斜め前に座った。あたしはアルバムを閉じ、ケーキの箱を開ける。彼が酎ハイと一緒に持って来たペティナイフで、ケーキを四分の一程度の大きさに切り分けた。その間、彼は重ねた取り皿を二人の前に並べ、その上にケーキフォークを置いた。

「お誕生日おめでとう」

 彼はそう言って、手にした缶をこちらに傾けた。あたしも同じように、彼の缶に軽くぶつける。
 カチ、と冴えない音が鳴った。あたしは一口だけ舐めて、汗を掻いた缶を置いた。右の手のひらが冷たく濡れて、やがて乾いていった。

「ねぇ、おじさん」

「何?」

「エッチしない?」

 彼は瞼を伏せて、薄く笑った。

「まだケーキを食べてないよ」