アルコールと彼の指輪

 勢い良く顔を上げると、おじさんは持って来た二本の缶をテーブルに置き、あたしの目の前に座った。不意に同じ目線の高さになり、逃げるようにあたしはアルバムへと視線を落とす。

「そ、ソファの下にあった」

「ふぅん、そっか。俺はね、D組だったと思うよ」

 おじさんが此処に隠したんじゃないの?
 そんな疑問が浮かんだけど、それよりも勝手に見ようとしたことを怒られなくて良かったと、そう思いながらあたしはD組を探して頁を捲る。
 C組の次の頁を捲った時、おじさんは言った。

「どれが俺だか、当ててみて」

 彼が先程までよりも少し身を乗り出してアルバムを覗き込むのが分かった。
 床に手を着くあたしの中指の先に、おじさんの人差し指の先が触れる。敢えて離れようとはしない、そんな自分が少し不思議だった。

「あ、分かった。これだ」

 おじさんを見つけるのは簡単なことだった。写真を指差せば、彼は浅く笑う。

「そう、正解」

 浅倉京吾って、この漢字を使うんだ。
 そう思いながら、おじさんの写真を見る。今よりも少し幼い彼は、学生らしく黒髪のままだ。

「おじさん、今とあんまり変わらないね。ちゃんと年取ってるの?」

「そうかな? 結構変わったと思うんだけど、年はちゃんと取ってるよ」

「制服、ブレザーだったんだね」

「うん」

「部活とか、やってた?」

「水泳部だったよ」

「泳げたの?」

「まぁ、それなりに」

「日焼けとかしてないね」

「撮影したのは冬だったしね。それに、もう引退した後だから」

 写真の中のおじさんは、今みたいな優しい表情とは違い、どこか冷たい印象を持っていた。