「ビールが無くなりそうなの。おじさん、他にお酒ある?」

 敬語なんて使わなくなっていた。別にお酒の力とかじゃなく、ただ敬語が苦手なだけだ。
 それに、彼は年上という感じがしなかった。勿論、仕草や言葉遣いは落ち着いていていちいち大人っぽいけど、ほら、あたしのことを「くまちゃん」って嬉しそうに呼ぶあたり。まるで子供みたいでしょ。

「あるよ、でも、残念ながらビールは無いんだ。酎ハイぐらいかな、今あるのは」

「それでも良いよ。限界まで飲んでみたいの」

「どうして?」

 彼がそう切り返してくるとは思わなかったから、つい言葉を詰まらせた。いや、普通は理由を聞かれることぐらい簡単に想像出来るけど。
 何となく彼は普通じゃないから、理由なんて聞いて来ないだろうと、あたしの中で勝手にそう思い込んでしまっていたのだ。

「別に……せっかくハタチになった訳だし、自分がどこまで飲めるか知りたいし」

 テーブルに置いた空き缶を、人差し指で軽く弾いた。カラン、と音を響かせて倒れた缶から、ほんのりとビールの苦い香りがした。

 あたしってつくづく馬鹿だよなぁ、と思う。
 知り合ったばかりの男の部屋で飲んだくれて、どうぞ犯して下さいとでも言っているようなものだ。