アルコールと彼の指輪

 ね? と訊いてくる二十三歳の男に、可愛さで勝てる自信は無い。

 元カレに、簡単な女だと思われるのが嫌だった。けれど、どんなに意地を張っても、あたしは簡単な女でしかないのだ。

「何でこういうことするの……」

 どうでも良さそうにおめでとうって言った癖に。
 あんた本当に、直江さんで言う「クソ野郎」だよ。

「ごめん、嫌だったかな」

 薄明るい蒼の陰影が彼の血色の良い白い肌を染めた。どこか憂いの帯びた瞳で見つめてくる彼から僅かに視線を逸らし、けれどその薄い唇に目が留まる。
 こんなに綺麗な顔をしてるのだから、キスが下手な筈が無い。

「くまちゃん?」

 おじさんを見つめ返したまま黙り込むあたしに、彼は首を傾げる。
 形の良い唇が、腰にくるような甘い声でくまちゃんと呼ぶ。

「ありが……クソ野郎」

「あはは、そこまで言ったなら最後まで言おうよ」

 あたしが嫌がってる訳じゃないと分かったおじさんは、安心したように笑った。気があるように思わせるのが上手い、嫌な人。

「ほら、もう一回」

 有難う、なんて言えない。これ以上口を開いたら泣きそうなんだよ。
 ケーキ一つでこんなに喜んでいる自分が分からない。ああ、もう、本当に、このクソ野郎。

「あ……りがと」

 また“簡単な女”になってしまいそうで怖い。