元カレよりずっと良い男。声も顔も最高に色っぽくて、格好良い。そんな理想の男は、おじさん以外の誰でもなかった。
けれど、彼はただの隣人。キスが巧いかどうかなんて、知る筈も無い。
それでも何も知らない元カレには衝撃を与えられたようで。
『何だよ、それ――』
彼が全て言い終える前に、ぶちりと通話を切ってやった。
元カレのあの気の抜けた声と言ったら。
あーあ、本当にダサい男。おじさんの方がずっと魅力的だ。いくら変人でも、それだけは否定出来ない。
「くまちゃん、おいでおいで」
お手洗いを後にすると、あたしに気付いたおじさんが無邪気に笑って手招きをする。
おじさんの癖に、可愛く笑いやがって。くまちゃんって呼ぶ声が甘過ぎなんだよ、馬鹿。
元カレに打ち勝ったあたしは、あのおじさんを褒めちぎる程に上機嫌だった。
そして彼に招かれるままに席へと戻った時。
「わ、ケーキだ……」
カウンターテーブルに置かれた四号程の可愛らしいホールケーキに目を奪われる。
白いふわふわのクリームに囲まれたたっぷりの苺が、ルビーの宝石のようにキラキラと煌めいていた。
苺の色を際立たせるためか、カウンターを照らすライトの青い彩色がわざわざ弱められていることにも気付きつつ、ケーキの上のホワイトチョコに描かれた文字を読む。
“Happy Birthday くまちゃん”
「ケーキは昨日のお客さんが直江にくれたものなんだけど、ほら、この“くまちゃん”の文字。俺が描いたんだよ」
凄いでしょ? と、嬉しそうに話すおじさんが指差すくまちゃんの文字は歪んでいた。“Happy Birthday”はかなり上手くて、恐らく直江さんが描いたのだと思う。
「ローマ字にするかで迷ったんだけど……平仮名の方が可愛いよね?」
けれど、彼はただの隣人。キスが巧いかどうかなんて、知る筈も無い。
それでも何も知らない元カレには衝撃を与えられたようで。
『何だよ、それ――』
彼が全て言い終える前に、ぶちりと通話を切ってやった。
元カレのあの気の抜けた声と言ったら。
あーあ、本当にダサい男。おじさんの方がずっと魅力的だ。いくら変人でも、それだけは否定出来ない。
「くまちゃん、おいでおいで」
お手洗いを後にすると、あたしに気付いたおじさんが無邪気に笑って手招きをする。
おじさんの癖に、可愛く笑いやがって。くまちゃんって呼ぶ声が甘過ぎなんだよ、馬鹿。
元カレに打ち勝ったあたしは、あのおじさんを褒めちぎる程に上機嫌だった。
そして彼に招かれるままに席へと戻った時。
「わ、ケーキだ……」
カウンターテーブルに置かれた四号程の可愛らしいホールケーキに目を奪われる。
白いふわふわのクリームに囲まれたたっぷりの苺が、ルビーの宝石のようにキラキラと煌めいていた。
苺の色を際立たせるためか、カウンターを照らすライトの青い彩色がわざわざ弱められていることにも気付きつつ、ケーキの上のホワイトチョコに描かれた文字を読む。
“Happy Birthday くまちゃん”
「ケーキは昨日のお客さんが直江にくれたものなんだけど、ほら、この“くまちゃん”の文字。俺が描いたんだよ」
凄いでしょ? と、嬉しそうに話すおじさんが指差すくまちゃんの文字は歪んでいた。“Happy Birthday”はかなり上手くて、恐らく直江さんが描いたのだと思う。
「ローマ字にするかで迷ったんだけど……平仮名の方が可愛いよね?」

