アルコールと彼の指輪

『どうせ分かってんだろ? 一年振りだってのに、相変わらず可愛くないな』

 高二の時の元カレだった。付き合っていたのはもう三年程前になる。けれど去年のこの日、同じように電話が来て以来、あたしは彼のデータをアドレス帳から削除した。

『……今夜会わないか?』

 何故ならその誘いに乗ってしまったことを、酷く後悔したからだ。
 今年もまた去年と一字一句全く同じことを言われ、携帯を壁に投げつけたくなる衝動を抑える。

 ――去年、あたしは元カレから連絡を受け、再会した。彼も東京の大学を受けたらしく、地元から電車で通っているようだった。

 一緒に外食をした後、元カレはあたしの部屋に上がり込み、一晩中あたしを抱いた。
 やっぱり渥美のことが忘れられないんだ。
 そう耳元で甘く囁いて、朝になれば、後ろ髪を引かれること無くあっさりと部屋を出て行った。
 たった一晩で元カレと付き合っていた時の気持ちを思い出してしまったあたしは、未練がましい醜い女になった。

 ――あれから一年、よりによってまた誕生日なんかに連絡をしてくるなんて。どれだけ最低な男なのだろうか。おじさんと秤に掛けて比べてみたいくらいだ。

『渥美……』

 黙り込むあたしを、元カレはお得意の甘い声で惑わせようとする。これもまた去年と同じ手口だった。
 けれど絶対に負けない自信が、あたしにはあった。

「会わない。あたし、あんたよりずっと良い男を見つけたんだから。声も顔も最高に色っぽくて、格好良いの。あたしのこと、凄く大切にしてくれるし、キスだって、あんたよりずっと巧いんだから」

 絶対の自信――それは、一年前より簡単に嘘が吐けるようになったということだ。