「じゃあ、自己紹介でもしとこうか。今更だけど」

 本当に今更な彼の提案に、あたしは無言で頷いてみせた。
 缶に残ったビールはもうすぐ空になりそうだし、お酒ってこんなものか、と少しガッカリしていたところだった。

「浅倉京吾(アサクラキョウゴ)二十三歳、男です」

 彼はセンターテーブルに両肘を乗せて、にこにこと笑いながらあたしに目配せをする。次はくまちゃんの番だよ、そう言って少し舐める程度にビールを含んだ。

「……斎藤渥美(サイトウアツミ)二十歳、女。くまちゃんじゃない」

「くまちゃんだよ。そのTシャツとかね」

 男が目を向ける先に視線を落とす。いつも通りの貧相なペチャ胸の上に、ピンク地のシャツの上からプリントされたくまのイラスト。これが原因で、男は先程からずっとあたしのことをくまちゃんと呼んでいたのだ。

「じゃあ、おじさん」

 そっちがくまちゃんと呼び続けるなら、あたしもおじさんって呼ぶ。

「まぁ、それでも良いよ」

 そんなあたしに彼はまた困ったように笑ったのだった。