アルコールと彼の指輪

 訳が分からないといった調子で、ぽかんと口を開けておじさんを見ている男性は、髭をショートコンチネンタルにしておじさんよりも少し年上のように感じた。
 対する隣のおじさんを見てみれば、彼は未だ肩を震わせてくつくつと喉の奥で笑いを押し殺している。

「嘘だったのか……?」

 男性が絞り出すような声でそう言った。ワイルドな外見をしているのに、茫然自失なその表情は少し間抜けで、状況が掴めずにいるあたしでも思わず笑ってしまう程だった。

「あんなの嘘に決まってるでしょ、俺が漁師になれる訳が無い。俺でも嘘吐いたの忘れてたのに、相変わらずピュアだよね」

 ピュアという可愛らしい単語は、男性にはあまりに不釣り合いだった。おじさんはそれを見越してわざとその言葉を選んだのだと分かり、彼の嘘を素直に信じてしまっていたらしい男性が可哀想だと思いながらも、一度緩んだ頬はなかなか戻ってはくれなかった。

「……ふざけんなよ、お前。卒業してから急に消えたから、俺ずっと漁師になるために東京出たのかと……ああ、また騙された。何年だ? 高三以来だから、五年か? 俺は五年もお前の嘘に騙されていたのか?」

「そうみたいだね」

 おじさんは口元を手の甲で隠しながら、くすくすと笑む。性格わる。ずばりそれが二人のやり取りを見た後のおじさんへの感想だった。