アルコールと彼の指輪

「せっかくだから今日はちゃんと飲みたいんだ。すぐ傍だし、歩きでも良いかな?」

「おじさん、車持ってるの?」

「まぁ、一応ね。車の方が良い?」

「別に」

 素っ気無いなぁ。笑みを含み言った彼の言葉は、嫌みとはまるで縁遠く、寧ろあたしの中に溶け込むように、ごく自然な会話の一部となっていた。
 あたしの周りからの印象は、こうだ。無口、暗い、怖い。クールというより冷たいよねと、よく言われた。

「車は今度、機会があったらね」

 彼の瞳に映るあたしは、どんな人間なのだろうか。聞こうと思ったけど、止めておいた。何ら変わらない、きっと彼もまた、胸の奥では他と同じように思っているのだと、そう決め付けてしまうことにした。

「おじさんって、ニート?」

 隣を歩き出した彼の横顔を見上げた。彼はフッと浅く笑って、

「かもしれないね」

 曖昧な答え方をするから、結局分からず終いでその話は終了した。掴めない人だと思う。
 どこかふわふわしていて、手を伸ばせばひらりと交わしていくような。

「おじさんって、たんぽぽの綿毛に似てる」

「そう言われるのは初めてだなぁ。俺はニートで綿毛か。いいね、面白い」

 彼のゆったりとした口調は、煩いのが嫌いなあたしにとってひどく心地良いものだった。