アルコールと彼の指輪

「……ほら、震えてる」

 ゆっくりと離れる体温。おじさんはあたしの顔を覗き込むように、少し首を低めて上目であたしを見る。
 震えてる? ああ、本当だ。唇が震えて、泣きそうだ。
 チョコレート色の瞳に、冴えないあたしの顔が映った。

「これで反省してくれれば良いんだけど、」

 ……違う。

「男っていうのは、別に興味無くたって女の子を抱き締めたりするんだよ」

 怖いんじゃないし。

「嘘も演技も上手い。くまちゃんみたいに可愛い子には、すぐに悪い男が寄って来るからね。騙されないようにしないと」

「おじさんは悪い男?」

 ていうかあたし、可愛くないし。並み以下だし。だから彼氏も出来ない訳で。
 けれど彼は唇を薄く引き伸ばして、鮮やかに笑ってみせた。卑屈なあたしは少し涙で濡れた瞳でそんな彼を睨み付ける。

「どうだろう。でも、大丈夫。せっかくお隣さんと仲良くなれたのに、わざわざ台無しにするようなことはしないよ」

 男は嘘も吐くし演技も上手い。興味無くても下半身のために行動することぐらい知っている。

 だけどおじさんのそれは、嘘じゃない。――つまり、あたしには本当に興味が無いってこと。