大学二年の春、あたしは二十歳の誕生日を迎えた。
 と言っても、ほんの数分前より背が高くなったとか、胸が大きくなったとか、そんな目に見える変化は一つも無かった。

 大学に誕生日を祝ってくれる友達なんていないし、まして彼氏なんて高二以来ずっといない。そんなあたしにとって、東京で一人過ごすだけの時間はあまりに長過ぎた。

「おじさん、」

「くまちゃん、俺は君と三つしか変わらないよ。おじさんはちょっと言い過ぎなんじゃないかな」

「嘘、三十くらいだと思った」

 男は困ったように眉を垂らして笑った。アーモンドの柔らかな瞳が細められ、目尻には優しげな皺を刻む。老けている訳じゃなく、それが彼の笑い方なのだ。

 見た目は若い。二十三歳と言われればそう見えるし、まだ高校生だと言われれば随分と大人っぽいなとは思うものの、あっさりと信じてしまうと思う。

 そんな胡散臭さに惹き付けられたのか、いや結局は人間なら誰でも良かったのか。

『お酒、一緒に飲みませんか』

 そうやって彼を誘ったのは、かれこれ三十分も前のことだ。
 真夜中の十二時過ぎにいきなりよく知らない男の部屋に缶ビールを二本だけ持って上がり込む女なんて、あたし以外にいるだろうか。

『いいですよ』

 二つ返事でよく知らない女を部屋に上げるこの男もこの男で、相当な変人だとは思うけど。