「絢子ぉ・・・」
明花は机の上に突っ伏して私を見上げた。今日の明花はいつものお団子スタイルではなく、高めのツインテールだ。寝坊をしてお団子を結う時間が無かったらしい。
「意外と髪の毛長いのね、明花。」
「でしょ?長い髪は乙女のセオリーだから。でも、絢子も髪の毛綺麗だよね。」
「でしょう?手間かけてるもの。」
「ごめんね、短くて。」
羽須美が数学の問題集を鞄にしまいながら言った。
「でも、木部君は髪の毛短いほうが好きだもんね。」
明花は笑って羽須美の方を向いた。
「木部?テニス部の?」
「そう、絢子聞いてよ。羽須美、木部君と付き合いだしたんだよぉ。」
「うそっ、いつから?」
私も羽須美をよく見た。耳まで真っ赤だ。本当らしい。
「冬休みに告白されたの。塾が一緒だから・・・」
そういうと塾が始まるから、と羽須美は教室を飛び出した。
「彼と塾通い、ロマンスだぁ。」
明花は『ロマンス』という言葉が口癖になっている。


「羽須美は甘木君と仲がいいと思っていたのに・・・驚いた。」
「・・・。」
「明花?」
「あ、ごめん、つい夢中になって・・・」
そういうと明花はノートから目を離した。
今日から教室にストーブが入ったので宿題をある程度教室で済まそうと私達は企んでいる。
「明花は古典好きだからね。」
「よしっ、終わった。」
「えっ?もう?」
「うん、だいたい流れもつかんだよ。絢子、わからなかったら聞いて。」
「私、古典は苦手だわ。何が言いたいのかわからない。」
「英語は得意なのにね、ねぇ、面白い話してあげようか?」
明花は目をきらきらさせて言った。話したくてしょうがないのだ。わかりやすい。
「何?面白い話って。」
「さっきの髪の毛ネタの続きなんだけど。」
「うん。」
「昔はね、女の人が男の人に髪の毛をいじらせるのはすっごいエロティックなことだったの。好きな人にしかやらせなかったんだよ。」
明花は『すっごい』というところをやけに強調した。
「へぇ・・・そうなんだ。」
「あれ?」
「?ん?何?」
「何か反応がイマイチだから。絢子、アマと反応が一緒。」
明花はぷうっと膨れた。