誰もいない。

どれだけ人の気配を探しても、それが感じられなかった私は、すぐにフェンスに寄りかかりながら、制服のブレザーのポケットの中から、小さなナイフを取り出す。

そして、


(ザクッ)


自分の右手を、突き刺した。


「っ………!」


痛みで、右手が熱い。
でも、その痛みも一瞬で治まる。

みるみる傷口が塞がっていく。

私は傷が完全に塞がりきる前に、流れ出た血を舐めた。


「………フー…」


結局は何もプラスにはなっていない。
自分の身体の外に出た血を、再び中に入れているだけだから、何も意味はない。
だが、こうすれば、少しの間、“乾き”は抑えられる。


「次に乾くのはいつだろうな、凛?」


そう呼びかけても、反応する人など誰もいない。

“凛”とは、吸血鬼につけた名前だ。

自分が憐だから、もう一人の自分は“凛”。

ときどきこうやって語りかけることがあるときに、よく使っていた。


「私は…別に、いつでもいいけどね。」


そう言い残し、私は屋上を出て、教室へ戻った。



(あ、血の跡残したままだ…)



途中で、自分の失態に気づく。
だがあの様子では、おそらく誰も来ないだろうと予想し、そのまま放置した。





「ククッ……………“凛”か…」




その後ろで、怪しい笑みが浮かんでいるとも知らずに。