黒紅花

「ひさぎ、出ない?

 出ようよ」

「何かお探しでしょうか?」

「いえっ、べ(別に)……」

「腕時計ってここにあるだけですか?」


私の声にかぶる、ひさぎの声。


「いえ、腕時計でしたら
 こちらにもたくさんございますよ
 
 どうぞ」


店の奥へと入って行く店員さんについて行きそうになるひさぎの腕を私は強く掴んだ。


「ひさぎ、時間ないよ」

「大丈夫だって、ほらっ」


店内に飾られた時計はどの時計もしっかりと定時を指し、まだ時間があることをひさぎに知らせる。


「贈り物でございますか?」

「はい、女ものってこういうの?」

「はい、そうですね
 メタルブレスは高級感もあり
 アクセサリー感覚でつけられて
 とても人気ですよ」

「そう、だけど普段使い
 できなさそうだね
 
 こういう感じで女ものはない?」


ひさぎは、レザーベルトの時計を指差す。