心の中の文句はもちろん腹の底に沈め隠した。
反論するのも面倒くさい。
なるべく関わりたくない、これが紗綾の本心だった。
それなのに~…。
「紗綾先生は、この近くに住んでるの?一人暮らし?」
興味津々な様子で私を見てくるそいつ。
手を休めるな!
無駄口を叩くな!
なんて、暴言が吐けるはずもなく…。
「この近くですよ。はい、一人暮らしです。」
社会に出るって厳しい。
こんな、こんなっ…髪の毛を茶色に染めたチャラい男としゃべらなくちゃならないなんて。
「紗綾先生って可愛いね。」
チーン。
きっと間抜けな顔をしてただろう。
私だってこんな不意打ちでこんなこと言われたらどんなに笑顔を貼付けてたって限界。
「…っ」
「なんか初な感じがヤバい。」
―ドキッ―
紗綾は、ニカッと意地悪っ子のような笑顔を浮かべたそいつの顔に不覚にもドキッとしてしまった。
