ひたすら、歩く。

滑らかなアスファルトとは違う、小石や草ででこぼこした道。キャリーのローラーがガツガツと引っ掛かるのに苛々した。

お母さんに渡された地図と、2年前に遊びに来たときの記憶を頼りに、おばあちゃんちを目指すこと30分。


迷った。

いや、だってどこも同じような景色なのが悪いんですけど。

そもそも、わざわざ東京から来たのに誰も迎えに来ないんだから仕方ないじゃん!

マジだるい……ありえない。

邪魔するものなんかないから、空がやけに広くて。

何よりも、携帯の『圏外』の表示が私を独りぼっちにする。

「なんで誰もいないの!」

言っても仕方のない言葉を吐いて、私は座り込んだ。


冷静になろう。


いくら田舎っつったってさ、人間くらい通るでしょ。
ちょっと経てば誰か地元の人が………



「ちょ!すいません、ちょっと!!」



ほら、人の声が!

「そいつ捕まえて!!」
って、

え?

「何……」

声が近づいてきた方を見る。


え、犬?

私に向かって、一匹の犬、それに続いて人が走ってきていた。

「だから、捕まえてって!!」
はぁ?

飼い主らしき男の人は、必死だった。

いや、でもちょっと馴れ馴れしくない?

とか考えてたら、

私の足元に、犬。

ハァハァ言って、私の周りをくるくるしている。

え、これ、柴犬?
かわいいんですけどー!!

「すいませーん!ったくお前はホントにさぁ……」

犬の後からやってきたのは、男の人。

「あ、ども」

そう言って私と目を合わせたその人は、ジャージにぼさぼさの金髪だった。

うわ、いかにもな田舎のヤンキーもどき出てきちゃったよ……。

「どうも」
私も短く答えて、なんとなく下を向いた。

ヤンキーが履いていたのは、見事なオヤジサンダル。
完全なる調和。

「ごめんごめん、びっくりさせちゃった?」

ヤンキーは犬を拾い上げると、軽い調子で言った。