声にならない声を上げてしまった。 嘘ッ!? こんなとこで………? ここにいてはいけないと思った。早く立ち去らないといけないと思ったのに、 腰を抜かして動けなかった。だから物影に隠れて時間が過ぎるのを待っていた。いけない事をしているという罪悪感を持ちながら、2人に気付かれないように……。


「あッ………だから……いい加減ッ……に……」
「黙れよ………。口塞ぐぞ」
「………ん……ッッ!」
「そのままおとなしくしてろよ?」
「あっ……ダメッ……嫌だ!離れて!」


2人の声は物悲しい旋律の様にこの広い廊下に響いた。


おねぇさんは覆い被さってるゼファさんを軽く突き飛ばして床に倒れるように力なく座り込んだ。 髪は乱れて上半身は露なまま。


「……悪かった。理性が飛んだ………」
「こんなとこじゃ……嫌だ……」
「そうだな。また今度………か」
「うん……ごめん……」
「じゃあ、コレどーすんだよ?」
「自分でなんとかしなさい」
「はいはい」
「………行きたくない」
「え?」
「行きたくないよ……」
「大丈夫だ。いつも通りやればいい」
「今日はもう行けない………。できないよ……」


あたしの知ってる強いおねぇさんはそこにはいなかった。すがる様にゼファさんに抱きついて行きたくないと言い続ける。
これはきっと……ゼファさんしか知らない。……おねぇさんの本当の姿。耳を塞ぎたくなった。工作員が何をしてるかわからないけれど、この2人の言う『また今度』はもしかしたらもうないかもしれない。あまりにも悲しくて聞いてられなかった。 何が悲しいの……?わからない。具体的にはわからない。でも……なんだかすごく悲しい。