汐祢は美しい女だった。

肌は白く、唇は紅く、そして何より漆黒の長い髪が汐祢を彩った。


里一番の長者の娘で、その評判は山の向こうまで届いていた。

気立てが良く、誰に対しても変わらず優しい女だった。


汐祢には腹違いの妹がいた。

大旦那と下働きの女の間に出来た子だ。

奥方は大旦那の悪癖をよく知っていたため、下働きの女を責めるような真似はしなかったらしい。

その代わり、生まれてきた子を養女として引き取り、母である下働きの女には一度も抱かせなかったという。

それは、奥方なりの復讐だったのかもしれない。



汐祢はこの妹を不憫に思い、特に可愛がっていた。