境屋敷は里の外れ、山との境にあった。 里一番の長者の持ち物だったが、屋敷というのは名ばかりの、うらぶれたものだった。 屋敷には娘が一人、住んでいる。 障子の影から時折娘の緋色の袖が蝶のように泳いだ。 里の者たちは娘を境の娘と呼んでいた。