10分程歩くと、立派なマンションに入る。


孤児である私は、国からの補助金と青空育英会という一般の団体からの奨学金で生活している。


奨学金は普通、学業の為につかうものだが、学費はただなので、最初から生活費にあてるつもりで申請した。


1年半前に完成したばかりの新築で大きなこのマンションも、育英会の援助の1つ。


後援している会社の持ち物だ。


部屋数が多く、建てたばかりで入居者が少ないので、育英会へ話がいったらしい。


早く孤児院を出たくて仕方がなかった私は、1番近い学校を受験し、マンションに入った。


蓮華学園に入ったのは単に、近くて全額免除の制度があったからだ。


収入が少ないので、安ければ何でもよかった。


学園に寮があるのは後から知った。


学園の寮も特待生はタダだが、金持ちに合わせられていて、居心地が悪い。


5階でエレベーターを降りる。


通路の右側にある自分の部屋に鍵をさしながら、ちらりと横を見る。


1つ右側、エレベーター寄りの部屋。


5階は、他に誰も住んでいなかったのに、1階にある自分のポストの隣のポストに、〔野田〕 と書かれていた。


部屋の扉には、番号しかかかれていない。


ポストには、4月1日から書いてあり、昨日は家具を運んでいた。


もう住んでいるかもしれない。


(空き部屋は幾らでもあるのに、何でわざわざ隣に…。)


陽菜達は仕方がないが、あまり他人とは関わりたくない。


出来れば、大学卒業まで住んで居たいと思っていた。


お隣さん次第だが、6年もご近所付きしなければならないのか。



なんと由々しきことだろう。




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