翔の手が、私の腕を掴む。
振り払うつもりだったのに、思わず見上げてしまった。
彼の眼に映る自分を見つけ、ビクリと肩が揺れる。
球体の眼球に映る私は、上下左右に引っ張られ、歪んでいた。
まるで、私の心のように。
「優月。」
また名前を呼ばれて、我に還る。
バッ。
翔の腕を振り払い、思い切り睨む。
出来る限り、侮蔑の意を込めて。
すると、翔の表情が僅かに曇った気がしたが、すぐに無表情になる。
「……久しぶり。」
「……………ど……して。なんで…この学校に来たの?」
声が掠れる。
彼との1年ぶりの会話。
憎くて憎くてたまらないコイツと向かい合って。
「野田の親に言われたんだよ。蓮華は名門だからな。」
なんでそんなふうに話せるの?
翔は、何も変わっていない。
少しは罪悪感とか後悔とかないの?
私は、毎日うなされているのに。
「……じゃあ、なんで私がいること知ってたの?」
「俺が蓮華に入るって言ったら、施設の園長が教えてくれた。」
口止めした筈だったのに…。
どうせ分かるからと、諦めたのか。
私にも知らせてくれればよかったのに。
「養子にはいったのは?」
「やっぱ、今の世の中金デショ。」
翔は私におどけてみせた。
最低だ。
翔は、変わっていた。
こんな奴じゃなかった。
もっと、人間として、綺麗なものを持っていた。
それとも、最初からこういう奴だった?
無意識下で、勝手に美化していただけ?
.
