「じゃあ、野田はあの席だから。」
翔は私から眼を逸らし、先生の方を向く。
体から、力が抜ける。
先生が指したのは、廊下側の1番前。
私から1番遠い席だ。
よかった…。
抜けた力のかわりに、安堵が広がる。
SHRが終わってからは、休み時間の度に、翔の周りには女子が群がった。
中心にいるのは美羽。
彼女等は、質問を浴びせかけたり、自分の長所をアピールしたりしている。
私は、葵と陽菜と、自分の席で話していた。
色々と聞きたいことがあって、翔を問い詰めたかったが、此処は人がいるからできない。
第一、アイツと言葉をかわすなんて、想像するだけで頭が腐りそうだ。
知り合いであることも知られたくない。
昼休みになって、葵と翔が教室を出て行った。
先生が葵に、校内の案内を頼んだからだ。
女子達はいつも通り、それぞれのグループで弁当な食べていた。
私は陽菜と一緒に、美羽が収穫した情報を聞いていた。
誕生日や血液型、女の子のタイプ等、美羽の話は、普通のことから始まった。
話を聞いて、その中に嘘が混じっているのが分かった。
翔の誕生日は7月じゃない。
今まで付き合った女の子は黒髪の子ばかりだった。
だが、信じきっている美羽は、
もうすぐ誕生日だから何をプレゼントしよう、とか
私は野田君の好み通りの茶髪だ、とか。
嬉しそうな笑顔で話し続けている。
その興奮のまま言った。
「野田君って、野田建設の養子なんだって!」
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