BABY×DOLL

だから欲しいものが思うように買えなかった。

だからこのchloeだって一年も使ってるの。

おかしくない?!
売れてるあたしが・よ!?

ファッションにだってもっと気を使いたかったのに…ママが邪魔する。

昔は…そんな人じゃなかったのに。

イライラする時は覚えたばかりの酒に逃げていた。
もちろん家で。それも独りで飲むの。

毎日のように
あたしは何かから逃げていた。
総てを手にしたのに
夢を手にしたのに

あたしの中は空っぽだった…

…あたし…何が不満なの?

虚しい気持ちで酒に少し酔ってきた時

あの台本が目に入った。

「映画…かぁ」

パラパラとページをめくった。
遠藤さんが印をつけていてくれたらしい。
ある役名に丸がしてあった。

──どうやらヒロイン

それも悪くない。

でも正直、やる気はあまりなかった。

だって、好きじゃない人とキスしたり愛し合うんでしょ?

抵抗はもちろんある。

それでも悩んでいたのは社長が『やってみればいい』と言っていたらしい事。

それは彼流の『やってみなさい』って意味だったから。

少し諦めて台本に目を通す。


──何故か
あたしはその台本に釘付けになった…。