庵に声をかけようとした幹生は
近づくことを躊躇った。
  
何故なら、その男はピッタリと
庵の傍に寄り添い辺りを見渡し
護衛する、その只ならぬ緊張感
に声をかける隙も無かった。

同じ方向へ歩きながら、ぼーっ
と庵の方を見つめる幹生に
気がついた要は、鋭い視線を
投げつけた。

「親父、こっちを見ている男が
 一人知り合いの方ですか?」

要の言葉に、庵は見つめる。
幹生に気がついた庵。

「ああカナメ、もうここでいい
 こんなところまで、鉄砲玉は
 来ないだろう 
 今日は、お前も家へ帰れ
 明日の朝、連絡する」
    
「分かりました
 必ず、私がお迎えに上がり
 ますので、一人で事務所へ
 出向いて行かれたり、勝手な
 行動だけは慎んでください」

「分かってる」

要は、庵に深く頭を下げ
幹生の方を見て一礼した後
車へ戻って行った。

幹生は、あんなに厳つい男が
庵に頭を下げ自分に頭を下げる
光景に驚いていた。

要の乗る車はその場を走り去る