あの音をもう1度

「奏?大丈夫か?」



優しい声が聞こえた。


鈴宮は眉をへの字に曲げて、私の前でしゃがんでいた。













「--ずっと・・・わかっていたのかしれない・・・」







私は顔を伏せたまま、ポツリ言った。




「えっ?」














ううん。本当はずっとわかってた。



心の底では、もう1度ピアノが弾きたいって求めていたことを。



だから、あの忌々しい記憶さえ忘れられなかった。












最初から到底、無理だったんだ。



ピアノを忘れることなんて。




だって・・・こんなにも心からピアノが弾きたいって思うんだもの。