「あら、ありがとう」
「褒めちゃねーよ」
ふと目にすると、香川の左手の薬指には指輪が光っていた。
「香川、おまえ結婚してんのか」
「そうよ。もう香川じゃないの。美園 志保よ。あたし、大和と結婚したの」
ふふん、と自慢気に指輪を嵌めた指をちらつかせる。
「…大和って誰だよ。知らねえよ」
「相変わらず、ひどい男ね。高校時代仲良く指導してあげたじゃない」
「もしかして、生徒会長かよ…」
香川はニッコリと笑った。
美園大和という男は確かに知ってる。
高校時代、生徒会長をしていた。
たしか、香川とは高校時代から付き合っていた。
こいつらは、教師の犬のようなやつらで生徒の取り締まりもしていて俺らもよくやりあった。
優等生の鏡のような男と地味女が結婚するとはな。
「あんたたちも、そろそろ落ち着きなさいよ」
「…うるせーな。おせっかいはいい加減止めろよ」
「おせっかいじゃないわ。棗ちゃんも、あの子と同じように傷つけるのは許さないからね」
香川の真剣な顔と、その言葉に息をのんだ。
俺には思い当たる節があるから。
棗以上に傷つけた人がいる。
大人になった今は、棗と幸せになることが俺に出来ることだと思ってる。
棗とのことを応援してくれるのは、香川のせめてもの優しさだろう。
「ああ、幸せにしてみせるよ」

