そんな昔のことを寒空の下考えた。
それを消し去るかのように、スーツの胸ポケットにあるタバコを取り出し火を点けた。
煙を吐き出す。
「伊織、一本ちょうだい」
蒼真にタバコを差し出す。
俺も蒼真も変わった。
タバコも酒も覚えた。
体を重ねた女なんて覚えきれないくらい。
虚しいということも覚えた。
社会人になってしばらくして、虚しいだけの女遊びも辞めた。
仕事に没頭した。
いくら変わって年をとっても、棗へのこの気持ちは変わることはなかった。
「にしても、伊織に女がいないなんて初耳だなー。女が放っておかないでしょ」
蒼真は、煙を吐き出して楽しそうに言う。
「虚しいだけだからな、何年も前に切ったよ」
「へえ、それは棗を忘れられないってことでいいのかな」
分かってるくせに聞くコイツは相変わらずだ。
「………」
「伊織ってば、一途だねえ」
蒼真はニヤニヤと笑っている。
「ふん、おまえだって俺の気持ち分かるだろ?」
蒼真は少しだけ目を見開くけど、すぐに普段の顔を見せる。
「なんのこと?」
「いつまでも特定の女を作らないのは忘れられない女がいるからだろ」
「さあ、誰のことか分かんないね。一途に誰かを思うなんて、とっくの昔に忘れたよ」
コイツも俺もガキのまんまだなとおかしくなった。
タバコを吸い終わると、車のドアを開け乗り込む。
「じゃあな」
「んじゃ、会社でね」
手を振る蒼真の顔を見ずに、エンジンをいれて車を走らせた。

