「じゃあ、俺はこれで帰ります。おばさん、ご馳走様でした」
頭を下げて、席を立つ。
「あら、もう帰っちゃうのね。また来てね」
はい、と挨拶を藤森家を後にする。
「なんだよ」
車に乗る前に、後ろに着いてきてる蒼真を見る。
「なんだよって、失礼だなあ。久しぶりに会った友達を見送ろうとしただけじゃん。
それより、フラれちゃたね」
ニヤニヤする蒼真。…目的はコレか。
「うるせ。アイツは本気にしてないからいいんだよ。これから、ゆっくり落とすから」
俺はガキの頃から、棗が好きだった。
出会いは、小学5年の頃同じクラスになった蒼真の家に遊びに行った時だった。
「俺ん家はねー、父ちゃん死んじゃって母ちゃん仕事してるから今は妹が一人で留守番してるんだ。」
この日は土曜日だったが、平日はばあちゃんが幼稚園まで迎えに行くらしい。
蒼真は、親父がいないことも感じさせないくらい明るく振舞っていて
おまけに、顔が整っていて、誰にでも分け隔てなく話すから女にモテる。
蒼真に似ているのだろうかと考えていたら、蒼真の家に着いた。
「どうぞー!棗ーお兄ちゃんのお帰りだよ」
玄関にいたのは、蒼真に全く似てない子供ながらムチムチ体系でブサイクな女の子だった。
「………」
「………」
お互い無言で黙り込む。
棗は警戒しているのか、俺を見上げ睨みつける。
そんな態度にムスッとする。
だけど、なぜだかその真っ直ぐな瞳から目が離せなかった。
あの一瞬から、俺は棗から目が離せなかった。
「おにいちゃん、こいつだれ」
一言目は、口の悪い一言だった。
「おい、こいつじゃねえぞ。俺は五十嵐伊織だ」
一応手を差し出してみた。
ガブッ!!
「痛っ!!こんの、クソガキッ!!!なにしやがる」
なんと、俺の手を噛みついたのだった。

