思い切り振りかぶったその瞬間、黒い人物は締め上げていた主を俺のほうに向かって投げつけてきた。

「くっ…!」

慌てて俺は、主を受け止める。
目はうつろになり、ひゅぅ、ひゅぅ、と小さく息を吐く音だけが聞こえる。

黒い人物は、主に気を取られていたその一瞬のうちに、姿を消していた。

「こ…ろ……すま…ぬ」

焦点が定まらないのか、主の目はまるで何かを探すかのように視線が泳いでいた。

「今すぐ手当てを」

そう言って、くないに手を掛けると、主はそれを制して、短く一言呟いた。

「て…きは、の…ぶ…が……」

その一言を呟くと、自分の手を制していた主の手は、まるで糸の切れた操り人形のように、ぐったりとその場にたれた。

「…主?」

俺は忍。
主を守ることが俺の使命。

なのに。

守るべき主が、俺の手の中で死んでいった。



守ることが、出来なかった。