そんな彼なら、彼女くらいいるに決まってるよね。

私が『淡い希望』を抱いた だなんて、ばかみたいな話。



その場にいられなくて、彼が借りたいといった本を貸し出し処理をしてもらう。

もちろん私の名前で。


二人の横を何も言わずに通り過ぎようとすると、あ、と加納くんが私の方を向いた。


「佐久良さん、やっぱダメ?」
眉を下げて笑う彼。


いつもならその笑顔に負けるのだけど、
今はそれをみるのが苦しかった。


『君と喋るのは本のためだけ』
と間接的に言われている気がして。


「…ごめんね、」

一言、それだけをやっとの思いで言って、
その場から去った、…いや逃げた。


そのとき彼が私の名前をつぶやいて
後姿をじっと見つめていたこともしらずに。