それから毎日愛想笑いの仕事を続けていたけど、

葵くんを見かける事がなかった。



そして、葵くんの歓迎会を夜に控えた日、


「これを○○室に届けてほしいんだけど、よろしく」


と、封筒を渡された。


これはよくあることだけど、葵くんが来てから社内をうろつくのは初めてだった。

由佳はお気に入りの堺さんと話し込んでいたから、私が○○室へ届けることになった。



エレベーターに乗り、最上階へ。


○○室とは…いつも社長がいる部屋だ。


そして今はきっと葵くんがいる………




コンコン


「失礼します」






私は自然になってしまう愛想笑いをしながら、部屋に入っていった。



一人、背の高い男性が窓際に立っていた。



「封筒をお届けに参りました。失礼いたします」



私は封筒を机に置いた。


その時、その男性は振り向いた。



これが…葵…くん?




あの女の子のようなかわいらしさは…まるでなくなってしまっていた。


大人の男…になってしまっていた。





「ありがとう」




その時葵くんは…笑った。



あ…やっぱり葵くんだ…





瞳がみんな黒目になっちゃった…。



「あ…失礼します!」

私は泣き出しそうになるのをこらえて深々とお辞儀をして出ていこうとした。


「あ…君…!


S.FUJIEDA……藤枝…下の名前はなんて言うの?」




私の名札を指差して葵くんは言った。




「す、すみれです!!

失礼します!!」



私はダッシュで部屋を出た。






葵くんは…私に気がついていないんだ……