「どうした?足、怪我したのか?」
苦痛の声は微かで、周りの声やアナウンスのお陰で彼には聞こえなかったはずだ。きっと右足を庇いながら立ったことで気付いたのだろう。
この状態で歩くのは少し辛い。でも、気付かれたことでまた迷惑をかけてしまったかもしれない。
「ほら」
「え、何?」
突然こっちに背を向けてしゃがみこんだ彼を不思議に思う。
「痛いんだろう?負ぶってあげるから」
「で、でも……」
彼はとても優しくていい人。兄くらい温かい心を持っている。でも、知らない人――どんなに親切そうに見えても絶対についていっちゃいけないと、兄に言われていた。
「どうしたの?早くのって?」
「えっと……」
真空は痛くない方の足で体を支えながら辺りをちらちら見る。
転ぶところを体を張って助けてくれたのはこの人だけ。あとは、視線は向けて来ても素知らぬ顔でやり過ごしている。そんな人間に囲まれていると、この背中を拒むことに勇気が出なかった。
真空は自分の体をその背に預ける。
「しっかり摑まって?」
見た目よりも広く感じる背に頷いて答えると、後(のち)にふわっと体が浮いた。今は怪我のことに気付いてもらって良かったと思う。


